20年にわたって日本の現代アートシーンを牽引してきた森美術館が開館20周年を迎えた。その節目を記念する展覧会「ワールド・クラスルーム: 現代アートの国語・算数・理科・社会」が4月19日に開幕。授業の科目を切り口に国内外約150点の現代アート作品が紹介される。

文=川岸 徹 

[哲学]李禹煥《対話》(2017年)、《関係項》(1968/2019年)所蔵:森美術館(東京)

現代に必要な「学び」とは何か?

 テストで高得点をとることを目的にした詰め込み型、暗記型の教育は正しいのか? どれだけ知識をもっても、人間をはるかに超える記憶力や情報処理能力をもつコンピューターを相手に勝ち目はないのではないか?

 教育にあり方については、いつの時代も終わることのない議論が続けられている。特に大部分の人々がスマホを所有し、ChatGPTをはじめとする高度なAI技術が人々の生活に急速に浸透しつつある今、正しい教育方法を見出すことはより難しくなっているといえる。

 森美術館開館20周年記念展として4月19日に開幕した「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」。開会に先駆けて行われた記者発表会にて、展覧会の参加作家のひとりである宮島達男は現代アートと教育との関りについて、このような私見を述べた。

[哲学]宮島達男《Innumerable Life/Buddha CCIƆƆ-01》2018年 所蔵:森美術館(東京)撮影:表 恒匡 画像提供:Lisson Gallery

「ジェンダーや言語、宗教の違いなど、様々な相違のなかで複雑な問題を多数抱える現代社会。そうした多様性の時代においては、わからないものが隣にあっても違和感なく受け入れていくことが求められる。そのときに重要になるのが現代アートだ。

 私は以前、今回の展覧会に出品されているヨーゼフ・ボイスの社会彫刻の意味がさっぱりわからなかった。でも、わからなくても、新しい知見を与えてくれるものとして受け入れていかなければならない。予測不能でクリエイティブな未来では、従来型の経験知ではなく、現代アートと対峙するときのような直観知の重要性が高まるだろう。

 現代アートとは、絵を描いたり、物を作ったりするだけのものではない。もっと大きな領域を担うものだ。私たちは現代アートを教育のベースに取り入れていかなければならない」