フランス北西部に広がるブルターニュ地方。19世紀後半から20世紀にかけて世界各地の画家たちは、独自の文化と豊かな自然にあふれたブルターニュに憧れ、旅し、あるいは住居やアトリエを構え、数多くの作品を生み出していった。なぜ、画家たちはこの地に心惹かれたのか。ブルターニュに着目した展覧会「憧憬の地 ブルターニュ —モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」が国立西洋美術館で開幕した。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

右・クロード・モネ《ポール=ドモワの洞窟》1886年 茨城県近代美術館 左・クロード・モネ《嵐のリベール》1886年 オルセー美術館(パリ)

フランス国内屈指の「異郷」

 イギリス海峡と大西洋に挟まれたブルターニュ。この地域は5世紀頃にイギリスから移住したケルト人によって開拓され、やがてブルターニュ公国という名の独立国になった。1532年にフランスに併合されたが、その後もブルターニュは独自の文化と豊かな自然を守り続ける。古代の巨石遺構や中近世のキリスト教モニュメント、花崗岩で築かれた石造りの民家が残り、人々はケルト系のブルトン語を話す。フランスの内なる「異郷」といえる地だ。

 そんなブルターニュが芸術家の視線を集めるようになったのはロマン主義の時代。新たな画題を求める者たちがブルターニュを訪れ、19世紀末にはポール・ゴーガンを取りまくポン=タヴェン派やナビ派といった美術史上重要なグループの誕生を促すことになった。

 ブルターニュに憧れたのはヨーロッパの芸術家だけではない。明治・大正期に日本から渡仏した画家たちもブルターニュに足を運んでいる。黒田清輝、藤田嗣治、岡鹿之助、山本鼎・・・。彼らもまた、ブルターニュの風景や人々を精力的に描いた。