インタビュア=吉村栄一

坂本龍一さんへのインタビューその3は、坂本さんが行ってみたいところ、会ってみたい人。

写真=Zakkubalan

──行ってみたい場所などはありますか?

「行ってみたいところは、どこだろう? 以前行った北極圏はすごくよかったので、もう一度行ってみたいですね。前回の訪問から10年経っているし、それからどれぐらい変化しているのかも知りたい。気候危機の中できっと氷河も大きく後退しているんだと思いますけど。あとは、やはり新型コロナウィルスの影響でしばらくは難しいでしょうけど、雲南省など、中国の故事や古典に出てくるような古い土地は訪れてみたいな。でも、それを言うと日本のいろんな土地もまだまだ行ったことのないところだらけだし、これまで縁が薄かった日本海側や瀬戸内とかも行きたいな。ぼくは小津安二郎の映画が大好きだから瀬戸内では尾道にはぜひ行ってみたい」

昨年12月の熊本城ホール公演 写真=Michihiro Baba

──地方はどこも食べ物もおいしいですしね。

「そう、去年の12月にひさしぶりに熊本に行ったら、食材がどれもよくて、食がすばらしかった。あらためて日本の地方のよさも感じて、どこでも行ってみればおもしろいんだろうなあと思いますね。やはり去年何十年ぶりかに訪れた盛岡も食が豊かですばらしかったし」

──たとえばいま住んでいるアメリカではどうでしょう?

「アメリカで行きたいところは思い浮かばない(笑)。あ、でもいま住んでいるニューヨークの家からクルマで1時間ぐらいで行けるクイーンズの奥のほうにコリアン・タウンがあるんです。そこに行くと本物の韓国家庭料理が食べられるそうなんですが、まだ行ったことがない。韓国で食べる冷麺や韓国の家庭料理が本当においしいので、ニューヨークでも食べたいのですが、マンハッタンの中にはぴんとくるようなお店がない。韓国料理に飢えているのでクイーンズのコリアン・タウンには行きたい(笑)」

2月23日にニューヨークで行われたローリー・アンダーソンのトリビュート・コンサート 写真=KAB America Inc.

──(笑)最後に、今年ぜひ会ってみたいという人はどうでしょう?

「会ってみたい人は、そんなに多くの人に会いたいと思うわけではないけれど、それでも毎年何人かはこの人と会ってしゃべってみたいなという人が出てきます。それは大体毎年暮れに収録して新春に放送する年一回のNHKのレギュラー番組(『坂本龍一ニューイヤー・スペシャル』)にゲストで来てもらっています。このあいだも経済学者の安冨歩さん、作家の平野啓一郎さん、経済思想家の斎藤幸平さんら初対面の3人を呼びました。1年で3人いれば多いほうかな。いまぱっと思い浮かぶのは民族系の右翼で辺野古の抗議現場で活動している中村之菊(なかむらみどり)さん、あの人とは会って話をしてみたいですね。あとはぼくの好きな折口信夫について本を書いている安藤礼二さんという方(著書に『神々の闘争 折口信夫論』など)がいて、立ち話はしたことがあるんですけど、ちゃんとつっこんで話したことがない。機会があればぜひ話しあってみたいですね。あとは漫画家の安彦良和さん。『機動戦士ガンダム』の作画監督で有名ですけれど、ご自身の漫画では満州を舞台にした『王道の狗』や、日本の古代史、あるいは近現代史をよく描かれていて、ぼくの歴史に対する関心とものすごくダブっているんですよ。ぼくはふだんあまり漫画は読まないのだけど、珍しく安彦さんのものはほとんど読んでいます。世代的にもほぼ同じ全共闘世代だし、安彦さんとはどこかで対談ができればなと考えています。いまは会ってみたいのはこの方々かな」

──たしかにちょうど3人ですね(笑)。

「(笑)」