文=福留亮司

 

パテック フィリップ『ノーチラス』

 ここ2、3年、ラグスポが人気だ。とくにコロナ禍以降は服装のカジュアル化が進んだこともあって、一段と注目を浴びている。ラグスポ、つまりラグジュアリー・スポーツウォッチは、豪華なスポーツウォッチという意味合いだが、そこに明確な定義があるわけではない。だからなのか、最近はスポーツ系の腕時計なら何でもラグスポと呼ぶような傾向にある。そこで、ここではラグスポとはどういうものなのかを、あらためて検証してみたいと思う。もちろん、決まりはないので独断と偏見に基づいてである。

ロイヤル オークが元祖

 まずラグスポの歴史を紐解くと、1972年に発売されたオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』に行き着く。このモデルはいまなおオーデマ ピゲのフラッグシップであり、購入するのに数年待ちという大人気モデルである。ここ数年のラグスポ人気で、購入の難易度はますます高まっているようだ。

 約50年前、『ロイヤル オーク』の登場は衝撃的なものだった。当時もオーデマ ピゲはラグジュアリーな時計を製作しているハイメゾン。それがステンレススティール製の高級スポーツウォッチをリリースしたのである。

 多くの名作時計を生み出すことになるデザイナー、ジェラルド・ジェンタによるデザインは、舷窓をイメージし、オクタゴンのベゼルを持った独特のもの。そして、ベゼルには裏蓋まで貫通する8本のビスの頭ををあえて残し、それもデザイン要素に加えていた。素材も高級時計といえばゴールドが常識であった時代に、あえてステンレススチールを使用。しかもブレスレットを装着するという試みを行なっている。

 さらにはケースサイズが31~35㎜程度が主流の時代に、あえて39㎜径のケースを使用しているのだ。ちなみに、これはその大きさから“ジャンボ”の愛称で親しまれることになる。

オーデマ ピゲ『ロイヤル オーク』

 発売当初は斬新なモデルと見られていたのだが、それ以降、ジラール・ペルゴ『ロレアート』、パテック フィリップ『ノーチラス』、ヴァシュロン・コンスタンタン『222』といった同類のモデルが、次々と伝統ある高級ブランドから発売され、一大ジャンルを形成していくことになる。

機械式時計受難の時代

 この70年代という時代にラグジュアリー・スポーツという新しいジャンルが確立させたのは、その発想力と共に、時代背景もあったと推測する。

 時計を知っている人ならお分かりかと思うのだが、69年のクォーツ時計誕生によって、70年代は機械式を主とする多くの時計ブランドが受難の時代を迎えることになる。安価で量産が可能な高性能なクォーツ式時計の普及によって、機械式時計のシェアが脅かされたからだ。そんななか、新しい試み、試行錯誤を繰り返すことで生み出されたのがラグジュアリー・スポーツだったと思われる。

 では、ラグスポに値するのはどのような時計なのだろうか。まずは「薄さ」があげられる。『ロイヤルオーク』も『ノーチラス』も薄いケースを持っている。どちらも10㎜前後の薄さである。『ノーチラス』においては、なんと8㎜台である。高級と言われていたドレスウォッチの薄さを見ると、やはり薄さ=上品ということになるので、“ラグジュアリー”と呼ぶからには薄さは第一条件となるのだ。

 さらに作り込みの高さと仕上げの良さは外せない。先に名前の出てきた『ロイヤルオーク』などは、薄くても立体感がある。エッジの効いたデザインはもちろん、ポリッシュ仕上げとヘアライン仕上げの巧みなコンビネーションによって、その効果を生み出している。尖った部分に触れてもソフトな感触で、仕上げの良さがしっかりと表現されている。これは連綿と受け継がれてきた熟練の技術による手作業での、丹念な仕事によるものである。

ケースとブレスレットがシームレス

 そして、それは格別な装着感にもつながる。現在はレザーもしくはラバーストラップが装着されているケースもあるが、基本はブレスレット。こちらにも丹念な仕上げが施されていることで、滑らかな動きを実現している。とくにラグスポの場合、ケースとブレスレットがシームレスになっていることが多く、それも装着感の良さに一役買っている。

 と、ここまでは主にラグジュアリーな点になるのだが、スポーツウォッチという名がつく限り、スポーティでなければならない。それはデザインが担保しているといっていい。あとは、薄型の高級時計にもかかわらず、ドレスウォッチにはない防水性が備わっているということだろう。ただ、ダイバーズではないので、それほど数値は高くないのだが、概ね50m以上はあり、なかには100mを超えるものも存在する。日常生活において、あまり気を遣うことなく使用できることこそが重要なのである。

 ラグジュアリー・スポーツウォッチをまとめると、1970年代に登場した高級スポーツウォッチを祖とし、薄さ、仕上げの良さ、作り込みの高さに加え、適度なスポーティさを持ち合わせたモデルということになる。

 百聞は一見にしかず、ということで、JBpress autographが考えるラグジュアリー・スポーツウォッチを、今後、紹介していきたいと思う。

 それはオーデマピゲ『ロイヤルオーク』パテックフィリップ『ノーチラス』ヴァシュロンコンスタンタン『222』ジラールペルゴ『ロレアート』ゼニス『デファイ』ウブロ『クラシックフュージョン』A.ランゲ&ゾーネ『オデュッセウス』の7モデル。大人気のラグスポを選ぶうえでの参考にしていただきたい。