2023年1月に開催されたサントリーの2023年事業方針会見。サントリー株式会社 代表取締役社長 鳥井信宏氏も登壇したこの会見の焦点は、ビールだった。しかも『ザ・プレミアム・モルツ』。なぜいまサントリーは『プレモル』に注目するのか? それを読み解いてみよう。

サントリー株式会社 代表取締役社長 鳥井信宏氏(左)とサントリー株式会社 取締役常務執行役員 ビールカンパニー 社長 西田英一郎氏(右)

なぜいまビールか?

サントリー、キリン、アサヒ、サッポロと日本のビールメーカー大手は2023年、ビールに対して、何らかの販売強化を行う。

この背景には、2023年10月に変わる、ビール系飲料の税率がある、と見るのが一般的だ。具体的には、現状の税率は2020年10月からのもので、350mlの液体に対して、いくらの酒税かを換算すると、ビールが70円、発泡酒が46.99円、新ジャンルが37.8円となっている。これが2023年10月から、ビール63.35円、発泡酒と新ジャンルはともに46.99円になるのだ。2026年までに、ビール系飲料の酒税を段階的に一本化する、という「酒税法改正」によるもので、2026年には、ビール、発泡酒、新ジャンルは区別なく、350mlあたり54.25円で統一される。

つまり、簡単にいえば、ビールは今後、安くなり、その他は高くなる。そこで、ビールメーカー各社は、このタイミングで伸びるであろうビール需要を見込んで、2023年は販売強化策を打ち出している、と語られるのだ。

また、税率以外の話をすると、ビール市場はコロナ禍からの回復傾向にある。業界全体を見ると、2021年と比較して、日本のビール・発泡酒・新ジャンルの販売数量はおおよそ2%程度伸びた、と見られている。もっとも成長率が大きかったのが業務用、いわゆる料飲店向けの販売で、前年比で37%程度の伸びを見せたとされている。それでも、2019年を100とすれば、6割程度にとどまるのだが、いずれにしても、だいぶビール類の市場は再拡大傾向を示している。メーカー別でいうと、2022年はアサヒが10%、サントリーが5%、サッポロが3%程度、前年比でビール類の販売が伸びたとされる。

サントリーの2022年と2023年

こうしたマーケットの状況のなかで、ビールに対して積極的な計画を発表したのが、サントリーだ。

まず2022年を振り返ると、サントリーのなかで成長株だったのは、糖質ゼロながら本格ビールの味わいを謳う『パーフェクトサントリービール』で、こちらは2022年10月のリニューアルが効いた。

販売数量的に全体の半分程度を締めているのは新ジャンルに属する『金麦』。さらに、まだまだ、スタート直後ではあるものの、ハイボールのスタイルをビールに持ち込んだ『ビアボール』は狙い通りに20-40代のターゲットに届き、ビール市場の拡大と若返りへの貢献が期待されている。

サントリージン 翠 SUI、サントリー 角瓶とともに並ぶビアボール

2023年も、基本的にはこれをキープ。そのなかで、ビール類全体では5分の1程度のシェアを占める『ザ・プレミアム・モルツ』をモデルチェンジし、ビール類全体に占めるビールの割合を微増させる、というのが、サントリーの事業方針の数字上のあらましだ。

ビール以外にも言及しておくと、RTDは国内市場だけでなく、国外展開を見据えており、2030年までに売上を3000億円規模にまで、つまり現状の1400億円から、倍増させる、という目標を立てている。ノンアルについてはすでに『オールフリー』で業界トップシェアだが、2026年までに、ワイン、RTDも含めてノンアル市場国内シェア50%、2500万ケースを目指す。

ノンアル商品群

テーマを維持しながら時代に合わせたデザインへ

さて、そう言ってしまうと、派手さに欠ける印象はあるけれど、『ザ・プレミアム・モルツ』はこの会見の話題の中心であり、「今年は勝負の年」と、サントリー株式会社 鳥井信宏 代表取締役社長は言った。

サントリーはビールではなかなか成功しなかった、という。というのは1930年、「寿屋」の時代にビールを発売するも5年で撤退した過去があり、ビールで成功をつかんだのは1963年に再挑戦してからだからだ。

その再挑戦から数えて2023年は60年の節目、そして、日本でのビールのプレミアムブランドの嚆矢となった『ザ・プレミアム・モルツ』が登場したのは、2003年なのでそこからならば20年。ダブルアニバーサリーイヤーに、プレミアムビールのオリジネーターとして、サントリーはいまやらねばいつやる、とばかりに「プレミアムなビールとはなにか」を問い直し、再定義する、と意気込むのだ。

かくして、『ザ・プレミアム・モルツ』は新生する。ぱっと見てすぐわかるのは、ルックスが変わったことだ。

サントリーは、『ザ・プレミアム・モルツ』が登場以来、大きな変化をさせていなかった缶のデザインを変更する。

これはこの20年で変化した世の中の価値観を反映したものだという。

『プレモル』が登場した2000年代、人々がプレミアムブランドに求めるものは、歴史と伝統あるブランドのゴージャスさ、という顕示的側面だった。それが、いまは「質がいい」「それを持っていることに誇りが持てる」といった実質的価値を重視する傾向へとスライドしている、と分析。そこからサントリーは、キーワードとして「装飾性」「ゴージャス」に対する「洗練」「しなやか」「躍動感」を抽出した。

『ザ・プレミアム・モルツ』の缶のデザインの変更はこれを反映したもので、これまでの垂直方向に安定したタンブラーを表現したデザインを重厚で装飾的であったとし、これを右ナナメに傾いたデザインへと変更することで、しなやかな上質感を表現している、とする。

あわせて、缶のプルタブがブルーになる。これは缶を開ける時、高揚感を煽るものだという。

麦芽を磨く? 謎めいた新製法

当然のことだけれど、缶を変えて、はい、アップデート終了、などということはもちろんない。

『ザ・プレミアム・モルツ』をプレミアムたらしめているのは、その缶のなかにあるビールだ。

このビールは贅沢である。ホップは欧州産の上質なものを冷蔵輸送で運び「アロマリッチホッピング」という製法でその香りを余すことなく引き出す。麦芽は世界のビール用大麦のうち、わずかに1%程度しかないという「ダイヤモンド麦芽」を使い、ここから2回、麦汁を煮出す「ダブルデコクション」という製法でコクを引き出す。素材も製法も贅沢なのが『ザ・プレミアム・モルツ』がプレミアムビールである所以だ。

そして今回、この製法の方にさらに手をかける。

ダイヤモンド麦芽はタンパク質が豊富なところに特徴があるそうで、このタンパク質とデンプン質をビールに引き出すことで、深いコクを得ることができる。そういったビールにした際に美味しさになる成分は胚乳のところに多く存在する。一方、麦の香りの成分は殻皮に近い部分に多い。この両方の要素をよりいっそう引き立てるべく、日本酒の精米からヒントを得た「磨きダイヤモンド麦芽」なる処理を麦芽に施す、というのが、今回のリニューアルの目玉だ。

磨きダイヤモンド麦芽

日本酒の精米、吟醸酒を作る際に米を削る作業は、極端に言えば、米から米っぽさを減らす目的で行われ、米のタンパク質、脂質を削り落とすことで、香りの華やかさを引き立て、スッキリとしたを味わいを実現するものだ。だから、ビールの麦芽でこれができたとしても、それをそのままやってしまったら狙いとは逆の結果になるのでは? と考えてしまうけれど、そこの詳細は企業秘密。具体的に何をどうして、コクと香りをより引き出すことに成功したか、詳しくは教えられないけれど、飲んだらわかる、とのことだ。

会見会場では、一足先に、報道陣はこの新『プレモル』を試飲できた。筆者は残念ながら、旧『プレモル』と新『プレモル』がどう違うかを、詳細に判別できるほどの経験値がなかったため、差異を描き出せないが、きめ細やかな泡、なめらかな舌触り、香りと味の複雑さ、旨味のある余韻、そして液体の見た目の美しさは、アルコール飲料全体を見渡しても、極めて高い水準にあることは疑う余地がない。プレモルファンは、2月28日(火)以降に味わえる新『プレモル』の、旧『プレモル』との違いを探すのはきっと楽しい時間だろうし、プレモルに馴染みのない人も、その品質には信頼を寄せて、間違いはないだろう。

飲食店向けプレモルも一般発売

とはいえ、いわゆるコロナ禍を経験した我々にとって、また、ノンアルコールを含めて、食中酒の選択肢が増え続ける現在において「とりあえず一杯」とビールを飲むのは、だいぶ遠い昔の出来事におもわれる。

ビールを飲むにしても、それは、なんとなく選ぶものではなく、あえて選ぶものだ。

そういうときの「せっかくだから、ちょっといいものを飲みたい」というニーズの受け皿になるのも、『ザ・プレミアム・モルツ』の重要な使命。

これについては『ザ・プレミアム・モルツ』はディフェンディングチャンピオンだ。『樽生』で『プレモル』を取り扱う店舗の94%が、すでにサントリーが最高においしい状態で飲める店、とお墨付きの「神泡品質」での提供というのが現在の状況。今回は、ビールそのものがさらに質を高めたことで、リードを広げる、といったところだろう。2023年の販売目標も、前年比+5%と、今後さらに回復するであろう市場のことをおもえば、そこまでアグレッシブではない。

この新『ザ・プレミアム・モルツ』に併せて『ザ・プレミアム・モルツ〈香る〉エール』も、「磨きダイヤモンド麦芽」を一部使用した刷新版『ザ・プレミアム・モルツ 〈ジャパニーズエール〉香るエール』として、同じく2月28日(火)に発売される。

さらに1ヶ月後、3月28日(火)にはこれまで料飲店を中心に樽生で展開してきた『ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム』を缶で発売。こちらは「心が震えるほどにうまいビール」として造られた作品で、「醸造家の夢と情熱と信念の結晶」とされる。缶の中央、ラベルのようなデザインは「名店の看板」をイメージしたものだ。『ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム』の希望小売価格は350mlが260円(税別)、500mlが348円(税別)。