19世紀末から20世紀初頭にかけて、ウィーンは芸術の爛熟期を迎え、若きアーティストたちが次々に才能を開花させた。グスタフ・クリムト、オスカー・ココシュカ、コロマン・モーザー、リヒャルト・ゲルストル。そうしたいわゆる“世紀末ウィーンの画家”の中でも、極めて強烈な個性を放ち、鑑賞者に直感的な衝撃を与える画家がエゴン・シーレだ。世界有数のシーレコレクションを誇るレオポルド美術館の所蔵作品を軸にした展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が東京都美術館で開幕した。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

《ほおずきの実のある自画像》1912年 レオポルド美術館蔵

クリムトが認めた若き才能

「僕には才能がありますか?」と問う、若き日のエゴン・シーレ。その質問に世紀末ウィーンを代表する存在であったクリムトは、「才能がある? それどころかありすぎる」と答えたという。

 そんな言葉のやりとりからも推察できるように、エゴン・シーレは初めから“天才”だった。幼少の頃から絵の才能を発揮し、16歳の時には学年最年少の特別扱いでウィーン美術アカデミーへ入学。クリムトの影響を受けながら、徐々に独自の画風を確立させていった。

《レオポルト・ツィハチェックの肖像》1907年 豊田市美術館

 展覧会の冒頭に飾られた《レオポルト・ツィハチェックの肖像》は、17歳のシーレが描いた人物画。モデルを務めたのは14歳で父を亡くしたシーレの後見人になったレオポルト叔父さんで、ウィーン美術アカデミーに進んだシーレを経済的に支援した人物だ。そんな叔父の姿を、シーレは明暗を際立たせ、力強く描いた。カンヴァスからは、叔父の厳格なオーラがにじみ出ているよう。鑑賞者を惹きつける画力を、シーレは17歳にしてすでに身につけていた。