文=渡辺慎太郎

フルモデルチェンジを果たしたBMWの7シリーズは、マイルドハイブリッドと電気自動車のみという電動化パワートレインを採用。フロントグリルは縁取りがLEDで光る仕様もある

エンジンはマイルドハイブリッドに

 BMWのフラッグシップセダン、7シリーズがフルモデルチェンジを受けました。時流に乗って、すべてのエンジンはマイルドハイブリッドとなり、電気自動車もラインナップされています。エンジン搭載モデルはガソリンとディーゼルを含めて計6種類、電気自動車には“i7”という固有の名称が与えられました。

 ボディサイズは全長5391mm、全幅1950mm、全高1544mmで、堂々たるサイズです。7シリーズはこれまで、標準とロングという2種類のホイールベースを有してきましたが、今回はロングホイールベースに相当する3215mmの1種類だけ。これは、i7が前輪と後輪の間の床下にバッテリーを積まなくてはならず、ホイールベースの長さ=航続距離となるためです。結果、101.7kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、最大625kmの航続距離を確保しました。

エンジンでも電気自動車でも、動力性能や操縦性に大差はなく、7シリーズとしての共通した乗り味を明確に表現している。写真はi7で、航続距離は最大625km

 新型7シリーズのスタイリングに関しては賛否両論あるようですが、BMWはこれまでも度々デザインをドラスティックに変更してきた過去があります。デザイナーがマンネリを嫌がって新しい挑戦をしてみたいと思うのは当然の思考でもあって、とりあえずは市場の反応をうかがい、必要であれば細かい修正を加えていくというのが彼らのやり方です。

フォルムはロールス・ロイス似?

 実物を見た個人的な印象は、同じグループのロールス・ロイスにフォルムが若干似ているようでもありました。ちなみに、手間とコストがかかる2トーンのボディカラーの採用は7シリーズ初の試みです。

 ホイールベースが長いので、室内には余裕ある空間が広がっています。トリムや各種スイッチ、シートなどはいずれも質感が高くラグジュアリーな雰囲気が感じられるしつらえです。ダッシュボードの見た目がずいぶんスッキリしていると思ったら、エアコンの吹き出し口が見当たらず、探してみたらトリムの間に上手に埋め込まれていました。

 高級車の内装には本革やウッドパネルといった高級な素材をふんだんに使う手法が一般的でしたが、最近はどのメーカーもなるべくシンプルな内装にして、ビジーな印象を避ける傾向にあるようです。

室内の質感は高級車にふさわしいもの。エアコンの吹き出し口をあえて見えないようにしている。シフトレバーはトグル式のスイッチに変更され、センターコンソールのダイヤル式スイッチの横に配置される

 圧巻なのは後席に装備されるシアタースクリーンで、そのサイズは室内の左右幅ほぼいっぱいの31.1インチ。スイッチを入れる天井から起き上がってきて、後席の前方視界はほとんど遮られてしまいます。当然のことながら、運転席から真後ろを見ることもできなくなり、サイドミラーかカメラが頼りになります。

エンターテインメントシステムの充実

 特に電気自動車は室内が静かなので、車内エンターテインメントシステムの充実を図るというのも最近のトレンドのひとつです。オプションで、ドアにも内蔵型の5.5インチのタッチパネルを選ぶことができて、ここでシアタースクリーンや後席のエアコンなどの操作が可能となります。

後席に設けられる大画面のスクリーン。アマゾンのFire TVが見られるなど、エンターテイメント機能が大幅に拡充された

 新型7シリーズがこれまでと比べて明らかに異なるのは、その静粛性の高さです。特にロードノイズの遮断が徹底されていて驚きました。エンジン音のしないi7ではそのままだとおそらくロードノイズが際立ってしまうので対策を講じたのでしょう。ドイツ車は比較的、ロードノイズの室内への侵入に寛容でした。これはロードノイズ=ロードインフォメーションだから必要なものという思想に沿っているとも言われてきましたが、BMWでは考えを改めたようです。

 標準装備のエアサスペンションは路面からの入力をうまくいなしつつボディをフラットに保ち、乗り心地にも優れています。静粛性と乗り心地という、高級車にとっては重要な性能である快適性の改善は目覚ましく、ライバルのSクラスを脅かすレベルに達していると感じました。

オプションで、後席ドアにもタッチ式パネルを装備することも可能。エアコンのやエンターテイメントシステムの調整ができる

760iと揃えられた数値

 i7のパワースペックは最高出力544ps/最大トルク745Nm、もっともパワフルなV8ツインターボエンジンを積む760iは最高出力544ps/最大トルク750Nmなので、これは意図的に数値を揃えたのでしょう。エンジンでもモーターでも、大差のない乗り味にしたいというBMWのこだわりが見てとれます。

実際、この2台に試乗しましたが、V8ツインターボはまるでモーターのようになめらかに回りレスポンスもよく、パワーデリバリーはどちらも似たような味付けになっていました。似たような味付けは操縦性にも及んでいて、BMWらしい「気持ちよく曲がる」は760iでもi7でも容易に実感することができました。

ドラブモードを“スポーツ”にすると、ステアリング操作に対するクルマの反応が早くなってスポーティな操縦性に変化するという味付けの塩梅も、BMWの真骨頂と言えるでしょう。

 BMWの新型7シリーズは7シリーズの歴史上、すべての性能が大きくジャンプアップしたもっとも洗練されたモデルへと生まれ変わりました。なお、日本仕様はすでに発表されており、当面はi7 xDrive60(1670万円)と740i(1460万円)の2モデルが展開される予定です。